『モルダー君。毎回のようにアメリカ全土を飛び回っとるが、その旅費、一体どこから出てるか考えたことがあるか?』

FBIの経費監査課のレノックスは静かに口にした。

モルダーは考えた。

スキナーのポケットマネー?(いや、それはない)

航空券、宿泊費、食費、その他雑費……そらもう、FBIの経理担当が青ざめるレベルの出張っぷりに自分でも考えると驚いた。

宇宙人絡みの事件ではあるが、NASAの研究予算が降りているわけでもない。

Xファイル捜査の経費問題について検証されるべきときが遂に来たのだ。

ある木曜日。午前9時12分。

場所はJ・エドガー・フーヴァー・ビル、FBI本部の地下駐車場とその車両管理部――

「モルダー捜査官、またあなたですか。今週だけで4回目ですよ」
無愛想な車両係の男が、受付カウンター越しに不機嫌そうな顔を覗かせる。

「じゃあ次は5回目に来ることにするよ」
モルダーは涼しい顔で、身分証を提示しながら言った。
「今回はロングドライブだ。ちょっと森の奥の方までね」

「……まーた宇宙人の死体発見?それとも透明人間?」

車両係は目を細めながら端末を叩き、少ししてから金属製のキーを差し出した。
「305号車、チャージャーのV6。ガソリンは満タン。トランクにM4、あと無線は「tac9」に合わせておいてください」

「レティクル星人にライフルが効けばいいがな。君のその几帳面さ、FBI本部でもっと評価されるべきだと思うよ」
モルダーは鍵を指で回しながらウィンクした。

エレベーターで地下駐車場へ降り、静まり返った空間を歩く。コンクリートの床に足音がこだまする中、列をなすFBIの公用車群の中に、自分の割り当てられたチャージャーの覆面パトカーが見えた。

黒のボディ、フロントには警察のパトカーでお馴染みの“プッシュバンパー”、 車内には分かりづらく警告灯が組み込まれている。

「いかにも“モテない奴の車”だよな、これ」

モルダーは車に乗り込み、ドアを閉めた。一瞬だけ、車内に静寂が満ちる。
イグニッションを回すと、低く重たいエンジン音が応えた。

「さて……本日の捜査。行ってみるか」
独り言をつぶやきながら、モルダーは車を発進させた。

地下駐車場のゲートが開く。
朝の陽光が差し込む中、FBIの黒い車両がゆっくりと地上へ出て行く。

モルダーはハンドルを握りながら、意味もなくワイパーのスイッチをいじってみたり、助手席の書類に目をやったりと、どこか落ち着かない様子だった。

「まったく……なんだって経理のやつらはあんなに小言が多いんだ」

車内にこぼれる独り言。誰も聞いていないが、モルダーの苛立ちは止まらない。

『経費削減のため、今後はレンタカーの利用を原則禁止とします。必要な場合は車両部で公用車の申請を――』

経費監査課の責任者、あの書類至上主義者のレノックス主任の顔が脳裏にちらつく。冷たい眼鏡の奥で、数字と予算しか見ていないような男だ。

「レンタカーじゃなきゃ捜査しづらい田舎もあるってのに……こんな車じゃ目立って仕方がない」

黒塗りのチャージャーは確かに性能は申し分ない。けれど、いかにも“FBIです”という胡散臭さと威圧感が抜けないのが難点だった。

車内には無線機、警告灯、ガンラック、フロントにはプッシュバンパー、ルーフにはアンテナ――すべてが「捜査車両です」と大声で主張している。

ハイウェイを走るこの覆面車両は、まるで“自由”とは正反対の装置のように思えた。

モルダーは運転席で片手をステアリングに添えながら、コンソールに設置された無線機から流れる雑多な交信に耳を傾けていた。本部のオペレーターとどこかの捜査チームのやりとりが時折割り込んでくる。

「こちらブラボー・ナイン、現場到着。南側の出入口を確保中」
「了解、バックアップはETA5分、くれぐれも慎重に」

モルダーは一息ついた。
  「……これで毎回呼び出されちゃ、パトロールのお巡りさんだな」

フロントガラス越しに流れるワシントンDCの夕景を眺めながら、独りごちた。
「せめてCB無線とかアマチュア無線だったら、少しは楽しいドライブになるのにな」

「どうせまたスカリーに『予算に文句を言う暇があるならレポートを書いて』って言われるんだろうな」

思わず苦笑するモルダー。

「――未確認飛行物体の目撃者が言った『小さな灰色の生き物が空を自由に闊歩していた』ってのを、どう論理的に説明しろってんだ」

異常な出来事と、それを“論理的”に報告せよとするFBI上層部との、いつもの戦い。

高速道路へと合流するランプを滑らかに走り抜けながら、モルダーは遠ざかっていくワシントンDCの街並みに目を細めた。

エンジンの音とともに、彼のぼやきは後部座席の無人の空間に吸い込まれていった。

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1. FBIの公用車ちゃうんかい!現地での移動手段はまさかのレンタカー問題

Xファイル見とったら、モルダーとスカリーがよう使っとる車、FBIの捜査車両ちゃうんか?って思うやろ?

いや、ちゃうねん。あれ、よぉ見たら後ろに変なシール貼ってるやん。

『LARIAT RENT A CAR』

レンタカーかい!!

lariat rent a car 画像の典拠元 『Xファイル』シーズン5の第19話 (C) Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

全米どこ行っても「LARIAT RENT A CAR」の車が出てくるっちゅうことは、つまりモルダーとスカリー、毎回出張するたびにレンタカー借りとるんやな。

FBIの公用車は?って聞きたいとこやけど、支局がない場所や、車の手配が面倒なとこではレンタカーのほうが手っ取り早いらしい。

調べると、毎回彼らが使うレンタカー会社は『ラリアット・レンタカー』という会社で、連邦捜査局と取引が多いで。

ほら、日本の刑事ドラマやったら、県警の刑事が空港や駅まで迎えに来て、「お待ちしておりました、警視庁の方ですね」みたいな感じで車用意しとるやん? でもXファイルにはそんなオモテナシ文化は存在せぇへん。「車? 自分で借りや」の精神や。

そんでもたま~に地元の保安官がパトカー貸してくれたりするけど、基本はレンタカー。

覆面パトカーちゃうから、警光灯もない。やから、危険な現場でも普通のセダンで突っ込んどるわけやな。

てか、たまに撃ち合いになっとるけど、保険降りるんか? LARIATさん、絶対「こいつら貸したらアカン客リスト」に入れとるやろ。

lariat rent a car 画像の典拠元 『Xファイル』 (C) Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

FBIが予算削減の波にさらされとるんか? それともワシントンD.C.から公用車で行くん面倒やから、現地で借りとるだけ?

まあ、せやかて、初期の頃はきちんと局の公用車使っとったで。

日本の警察さんはレンタカーで捜査するのはあるみたいやけどね・・。

刑事部と総務部装備課が捜査車両よりもレンタカーを重宝する理由は?

もちろん、この「LARIAT RENT A CAR」って実在せえへんよ。完全に架空会社や。

せやけど、『Breaking Bad』とか他のドラマにも出てきとるから、スタッフの遊び心として、いろんな作品に登場しとるんやな。

ファンなら「おっ、またLARIATやん!」ってなる、ちょっとした小ネタってわけや。

2、FBIの経費精算担当者の苦悩…やっぱモルダーは経費使いすぎて怒られちった

ワイは実際のFBIの経費事情に筆者は詳しくないが、早くて確実なレンタカーも、その経費となると別の問題となるようや。

レンタカー借りてばっかのモルダーとスカリー、案の定FBIの経費基準をオーバーしとるわけや。

シーズン7の最終話『レクイエム』では、とうとうFBIの会計監査官に詰められるんやで。

二人のお目付け役上司が理解者だったスキナー副長官からカーシュ長官代理に代わり、モルダーとスカリーらの宇宙人関係の捜査活動を妨害したい思惑からか、局の規律を乱す厄介者を早く追い出し、自分のキャリアを守りたい思惑からか、監査官をけしかけてXファイル課の使う経費について詰問、叱責させるわけや。

監査官:「レンタカー代、宿泊費……こんな経費、許さん! もうちょい視野を狭めたらどうなんやモルダー君」

モルダー:「僕たちの扱う事件は普通の捜査方法が通用しないんです!」

監査官:「妹さんの問題は解決したはずやろ? 報告書に君のサインもある」

モルダー:「(ブチギレそうになるも耐える)まるで脅しやな……」

いや、ほんま、Xファイル課に経費削減とか無理やろ。毎回UFOやら宇宙人やら追っかけて、何の成果も上がらんねんから、監査官からしたら「お前ら何してんねん!? もうええ加減にせぇ!」ってなるわな。

とはいえ、この監査官も連中の手先でモルダーに宇宙人関係の捜査から手を引かせたいんやろか、それとも、単に融通の利かない監査官なんろか?

もっと妄想して描くとこんな感じやろな。あくまでワイの夢想やで。こんなシーンはないからな。

FBI監査室にて

監査官:「モルダー捜査官。君はなぜ捜査局の公用車を使わないのかね?レンタカーは費用がかさむだろう!」

モルダー:「それは……FBI支局の車両を手配する時間がないことが多いんです。出動要請がかかればすぐに飛行機で現地に向かう必要があるし。それで、どこの空港にも必ずラリアットの支店があるから便利なんです。スピードが命なんですよ。」

監査官:「他の捜査官の捜査経費の適正な支出を見ると、言い訳にはならんな。君の使った『Lariat Rent-A-Car』の請求額を見たまえ!州外走行料金含めて1週間で4,200ドルだぞ!なんだ?日本までドライブしてきたのか?」

モルダー:「ええ、本場の寿司を食べに。ハハッ…今度、寿司に関する怖い話をお聞かせしますよ。この前の出張の時、機内の日本人ビジネスマンに教えてもらったんです。回転寿司ってやつが…」

監査官:「…(口がへの字)」

モルダー:「監査官、しかし、僕は適正な捜査を…」

監査官:「支局の車を使えばこの経費は大幅に削減できたはずだ!(グワッ!!)」

モルダー:「でもFBIの車って、あからさまに捜査車両なんですよ。ダッシュボードにおかしなライトがついてたり、トランクの上にはアンテナ…変に目立つんです。ナンバーだってもろに連邦政府の公用車ですよ。UFOの目撃者や、超常現象を扱う事件でそんなモテない男が乗ってる『黒のフォード・クラウンヴィクトリア』を使ったら、途端に“MIBが来たぞ”って情報提供者が口を閉ざしてしまう。だから僕は止むを得ず…」

監査官:「いい映画なんだがな…。ともかく、君はレンタカーの方が捜査向きだとでも?」

モルダー:「そうです。例えば僕が田舎町のモーテルにチェックインするとき、局の車で乗りつけたら、もう町全体にバレバレなんですよ。『あ、政府のヤツが来た』ってね。レンタカーなら、その、単なる旅行者と変わらない。」

監査官:「レンタカーだって不自然だろう。それにしても君は、頻繁にレンタカーを乗り捨てているようだが?」

モルダー:「……ええ、それも、止むを得ず…、ですね」

監査官:「1か月で8台もレンタルしているんだぞ!乗り捨てた理由を説明してくれたまえ!」

モルダー:「逃げるためです。」

監査官:「誰から?」

モルダー:「……政府機関の人間とか、時には宇宙人とか。」

監査官:「(深いため息)……モルダーくん、君は自分の発言がどれほど荒唐無稽に聞こえているか、自覚はあるのかね?」

モルダー:「じゃあ、僕がこの請求書の数字を見て驚いてないと思います?確かにレンタカーは高い。でも、僕たちの扱う事件では、普通の捜査とは違うリスクがある。臨機応変が必要なんです」

監査官:「君の言うことが仮に正しいとしても、FBIの経費には限りがある!規律と節約が必要なのだ!このままではXファイル課の捜査経費は承認できない!」

モルダー:「それで、どうしろと?」

監査官:「簡単な話だ。今後の捜査にレンタカーの利用は禁止。公用車のみを使いたまえ。 さもなくば、経費は全額自己負担になる。君の私費なら、プリウスに乗ろうがUFOに乗ろうがかまわない。それが嫌なら、今後は“モテない奴の乗る車”を使いたまえ」

「刑事がこんな車に乗るのか?」というセリフから考える「アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!(The Other Guys)」

モルダー:「(小声で)……また、これか。」

監査官:「何か言ったかね?」

モルダー:「いいえ、何も。どうせまた異星人に車ごと拉致されるのがオチだろうな、と思っただけです」

監査官:「(激怒)モルダーくん!!!真面目に聞きたまえ!!!」

…こんな感じやで(笑)で、そのあと、またスキナーにも詰問されるんや。

スキナー「モルダー、経理課がお冠だ。私からも確認したい…これは捜査に必要な経費なのか?」
モルダー「もちろんです。宇宙人の足取りを追うために必要不可欠な……」
スキナー「で、捜査のたびに現地の雑貨店で“マグライト”の購入を?」
モルダー「いえ、先日からはこっちの小型のライトに換えたので…そのようなことは今後は…」
スカリー「……(知らんぷり)」

スカリーも冷静に見えるけど、結局モルダーに付き合わされとるだけやからな。

これ、ホンマにFBIの正式な任務かどうか、経費精算の書類作成する奴、毎回困っとるで。

まぁでもな、モルダーとスカリーがどんなにレンタカー代を使い倒そうが、結局「政府の陰謀を暴くため」やからしゃーない。

問題は……その経費がどこから出とるかって話よな!

ショムニみたいな恰好でパンプスつかつか響かせた経理部員に『モルダー捜査官、ナイトクラブの領収書の提出がなされておりません。締め日までに大至急お願いいたします。なお手書き領収書は今後認められません』ってポスト・イット®をデスクの上のパソコンの電源ボタンに貼られたり、『タコ焼き代なんか経費で落ちませんよっタコッ!』って言われてもな、Xファイルには普通の捜査方法が通用せえへん。

ある程度の経費がかかるのは仕方がないで。タコはスキナーやで。

なお、宇宙人マニアである市民A氏(マックスさん)が情報公開制度を使ってモルダー捜査官らの主張経費を公開請求しており、彼らの経費の内訳は一般市民も知りうることができるようやで。

しかしまあ、モルダーの出張時の宿泊先は毎度、宿の主人が不法に隠し通路を作るような怪しいボロモーテル(2018のトカゲ男の憂鬱を参照)が主なものだと思うのだが、これでも宿泊費が高いって言うんだから、アレよりヒドイところに泊まれと言うんやろか…。ひいっ!戦慄やで!

まあ、あれよな。同シーズンの3話前で、スキナー副長官が局の経費でモルダーとスカリー(スキナー自身も含む)をハリウッドの高級ホテルに泊まらせた件も例の経費監査とおそらく関係あると思うで。

でも、それスキナー氏が悪いんやで。

「情報収集はインターネットで充分だろう。これからはこんな経費の使い方は許されない」と、かなりキツく言い切る監査官なんやが、立つのは弁だけで、最後にはこの監査官、モルダー氏にぶん殴られてしまったで。「(監査官の)“視野を狭めてやった”軽くね」と、スカリー氏にモルダー氏がカニポーズしながら語ったんや。

(C) Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

考えてみれば、モルダーも結構粗暴やね…。とくに初期のエピソード。剃りあとの目立つモルダーがグロック19に9mmパラベラムの詰まったマガジンを乱暴にぶちこみ、スライドを得意気に引いて初弾をチャンバーに装填し、戦闘意欲マンマンのシーンとかな。やってやる!まるで大地康雄の演じた川俣軍司みたいに狂気じみとるで。やってやるんだ!やる気だこいつ。誰か止めたってや!スカリー!

あと、顔を合わせれば毎回モルダーにどつきまわされていたクライチェック。まあ、彼はモルダーの家族に酷いことしてるし、モルダーに殴られても仕方ないかもしれへんな。

ところが、厳しい経費監査の直後だってのに、涼しい顔してオレゴン州へ出張し、アブダクティ関係の捜査を行うモルダーとスカリーなんは笑うで。

もちろんラリアットレンタカー社のレンタカー使用。よく捜査が認められたでほんま。まさかの無許可、自費捜査か?

実際、カーシュに『今回の経費は認められない』などと言われて、捜査にかかった旅費をスカリーに自弁で払わせた場面もかつてあり、みみっちいところがケチくさい3流日本企業っぽいなと妙に感心したで。

ちなみにモルダーとスカリーってクルマ通勤なのだろうか。シーズン5の第15話「旅人」では、元FBI捜査官アーサー・デールズが自身の若いころの回想にて『私は経費をごまかしたこともなければ、FBIの公用車を私用に使ったこともない!』などとモルダーの前で言い切っているのは、モルダーに対するアテツケっぽいセリフで好きやなあ。

結論…ほんまのところ、FBIの捜査費ってどうなっとるん?

実際のFBIの経費事情はようわからんけど、確実に言えるのは、Xファイル課の経費は毎回バカみたいにかかっとるちゅうことやな。

モルダーとスカリーが飛行機乗って、レンタカー借りて、ホテル泊まって、飯食って、宇宙人追いかける……そら監査入るわ!

スキナー副長官みたいな理解のある上司がおるうちはよかったけど、カーシュ長官代理に代わってからは、もうモルダーとスカリーの宇宙人捜査を潰したくて仕方ない感じやったな。

あの経理の監査官も、Xファイル潰したい連中の回しもんなんか、それとも単なる融通きかんガチガチの官僚気質なんか……

まぁ、どっちにしてもモルダーの前で「妹の件」を持ち出したんが、運の尽きやったな!?